第5話 秋とコーラ

秋の夕暮れは、少しばかり感傷的な気分になる。

空は高く澄みわたり、風はどこか冷たい。会社からの帰り道、すっかり日が落ちた街を歩く。夏が過ぎ去った寂しさと、これから来る冬への期待が、混ざり合ったような不思議な季節だ。

いつものように、仕事終わりに彼女と待ち合わせをした。普段はコーヒーかお茶を飲むことが多い僕たちだが、その日は二人とも無性に冷たいものが飲みたくなった。

「コーラ、飲みたいね」

彼女がそうつぶやくと、二人してコンビニに入った。僕は無糖のコーヒーを手に取ろうとして、ふと手を止める。彼女はすでに、キラキラと輝く炭酸飲料の棚の前で、迷うことなくコーラを手にしていた。

「あ、僕も」

なぜか、無性にコーラが飲みたくなった。

普段、健康を気遣い、甘い飲み物は避けている。彼女も僕の真似をして、いつもブラックコーヒーを飲んでくれる。でも、この日ばかりは、二人して無邪気にコーラを手に取り、レジに向かった。

コンビニを出て、二人で少しだけ歩く。道端のベンチに座り、プルタブを開ける。

「プシュッ」

小気味よい音が、秋の静かな夜に響いた。

「うまっ!」

二人でコーラを一口飲むと、同時に声を出して笑った。強烈な炭酸が喉を通り過ぎていく感覚が、なんだか懐かしい。若い頃、お金のない学生だった頃、夜中に友人と集まって、他愛もない話をしながらコーラを飲んだ。あの頃の、何もかもが刺激的で、少しだけ危険だった日々を思い出した。

「ねぇ、コーラってさ、不思議だよね」

彼女がそう言った。

「どうして?」

「なんか、特別じゃないのに、飲むと特別に感じるっていうか…」

彼女の言葉に、僕は少し考えた。そうだ。コーラは、特別な場所で飲むものではない。でも、なぜか、その時々の感情や思い出と強く結びついている。僕にとって、コーラは青春そのものだった。

そして今、僕の隣にいる彼女と飲むコーラは、また新しい思い出を作ってくれた。

隣で無邪気にコーラを飲む彼女の横顔を見つめる。

このささやかな幸せが、僕にとっての特別なんだと、心からそう思えた。

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