秋の夕暮れは、少しばかり感傷的な気分になる。
空は高く澄みわたり、風はどこか冷たい。会社からの帰り道、すっかり日が落ちた街を歩く。夏が過ぎ去った寂しさと、これから来る冬への期待が、混ざり合ったような不思議な季節だ。
いつものように、仕事終わりに彼女と待ち合わせをした。普段はコーヒーかお茶を飲むことが多い僕たちだが、その日は二人とも無性に冷たいものが飲みたくなった。
「コーラ、飲みたいね」
彼女がそうつぶやくと、二人してコンビニに入った。僕は無糖のコーヒーを手に取ろうとして、ふと手を止める。彼女はすでに、キラキラと輝く炭酸飲料の棚の前で、迷うことなくコーラを手にしていた。
「あ、僕も」
なぜか、無性にコーラが飲みたくなった。
普段、健康を気遣い、甘い飲み物は避けている。彼女も僕の真似をして、いつもブラックコーヒーを飲んでくれる。でも、この日ばかりは、二人して無邪気にコーラを手に取り、レジに向かった。
コンビニを出て、二人で少しだけ歩く。道端のベンチに座り、プルタブを開ける。
「プシュッ」
小気味よい音が、秋の静かな夜に響いた。
「うまっ!」
二人でコーラを一口飲むと、同時に声を出して笑った。強烈な炭酸が喉を通り過ぎていく感覚が、なんだか懐かしい。若い頃、お金のない学生だった頃、夜中に友人と集まって、他愛もない話をしながらコーラを飲んだ。あの頃の、何もかもが刺激的で、少しだけ危険だった日々を思い出した。
「ねぇ、コーラってさ、不思議だよね」
彼女がそう言った。
「どうして?」
「なんか、特別じゃないのに、飲むと特別に感じるっていうか…」
彼女の言葉に、僕は少し考えた。そうだ。コーラは、特別な場所で飲むものではない。でも、なぜか、その時々の感情や思い出と強く結びついている。僕にとって、コーラは青春そのものだった。
そして今、僕の隣にいる彼女と飲むコーラは、また新しい思い出を作ってくれた。
隣で無邪気にコーラを飲む彼女の横顔を見つめる。
このささやかな幸せが、僕にとっての特別なんだと、心からそう思えた。
