週末、ガレージのシャッターを開ける。そこに鎮座しているのは、僕が長年愛用しているバイクだ。
若い頃、仕事で成功することだけを考えていた。でも、その成功の先に何があるのか、僕はまだ知らなかった。そんな時、バイクだけが僕を自由に解き放ってくれた。風を切り、エンジンの鼓動を感じながら走る時間が、僕にとっての唯一の現実だった。
あの頃の僕は、いつも一人だった。
けれど、今は違う。
彼女が「ねぇ、バイクの後ろに乗せてよ」と言ってから、僕の週末は、全く違うものになった。
慣れないヘルメットを被って、少し緊張した面持ちの彼女。僕は、優しく彼女の手を取って、バイクに跨るのを手伝う。
「しっかり捕まってて」
僕がそう言うと、彼女は僕の背中にぎゅっとしがみついた。背中に伝わる彼女の温かさが、僕の心を温かくする。
エンジンをかけると、低く響く音がガレージにこだました。
夜の国道を走る。街の光が、まるで星のように流れていく。風が僕たちの間を通り過ぎていく。ヘルメット越しに聞こえる、エンジンの音が心地よかった。
「ねぇ、部長!」
ヘルメットの向こうから、彼女の声が聞こえる。
「なあに?」
「楽しいね!」
その一言が、僕の心を温かくした。
若い頃、僕はただ、自由を求めてバイクに乗っていた。どこまでも遠くに行けば、何かが見つかると思っていた。
でも、今の僕が一番見つけたいものは、すぐ隣にあった。
この、何にも縛られない自由な感覚。そして、その自由を分かち合える相手が、僕の背中にいること。
僕が長年、一人で走ってきたこの道に、彼女というかけがえのない存在が加わった。
