第4話 サンドイッチ

朝、少しだけ早起きをして、彼女の朝食を作る。

会社員時代から、朝は忙しく、食事はいつも適当に済ませていた。コーヒーを一杯飲んで、あとはコンビニで買ったおにぎりやパンをかじって、慌ただしく出社する。そんな生活を何十年と続けてきた。

でも、彼女と暮らすようになって、朝の風景はがらりと変わった。

「今日はサンドイッチにしようか」

彼女が寝ている間に、僕はキッチンに立ち、冷蔵庫の中身を覗く。ハムとチーズ、レタスにトマト。あり合わせの材料だけど、彼女のために作るとなると、不思議と心が満たされていく。

パンをトースターで軽く焼き、焦げ付かないように見張る。具材を挟む前に、パンにマスタードを薄く塗る。僕が好きな、ほんの少しのこだわりだ。

完成したサンドイッチは、不格好だけど、なんだか愛おしく見えた。

「んー、いい匂い」

寝ぼけ眼の彼女が、キッチンに現れる。

「起きたのか」

「うん。なんか、いい匂いがするなーって思って」

彼女は僕の作ったサンドイッチをじっと見つめ、そして嬉しそうに微笑んだ。

「これ、わたしが作ったのより、美味しそう」

そんなことを言ってくれる彼女が、たまらなく愛おしい。

二人でテーブルに向かい合い、サンドイッチを頬張る。パンのサクッとした食感、ハムの塩気、チーズのコク、そしてシャキシャキの野菜。そして、僕が隠し味に入れたマスタードの風味が、彼女の顔を少しだけしかめさせた。

「あ、これ、からい!」

彼女がそう言って、少し笑う。

「ごめんごめん、ちょっと入れすぎたかな」

そんなささやかなやりとりが、僕の心を温かくしてくれる。

若い頃、僕はいつも何かに追われていた。仕事に、時間に。でも、今の僕は違う。ただ、隣にいる彼女の笑顔を見るだけで、心が満たされる。

朝の光が窓から差し込み、彼女の髪を金色に染めている。その横顔を見つめながら、僕はゆっくりとサンドイッチを噛みしめた。

この、何気ない朝の時間が、僕にとって、何よりもかけがえのないものだ。

diary
ゆう

製造現場の最前線で、長らく生産技術の仕事に携わってきました。
工作機械の緻密な構造や厳格な規律、そして効率化という名の「引き算」の世界で、日々研鑽を積んできた背景があります。
しかしある時、完璧な設計図の中にも「ゆらぎ」があることに気づきました。
それは、昼と夜の境界に現れる茜色の夕焼けや、どこからともなく漂う金木犀の香りのような、数値化はできずとも確かにそこに「在る」美しさです。
現在は、技術者としての客観的な視点を持ちつつ、物事の「中今(なかいま)」を大切にする精神で、何気ない日常を静かに観察しています。
このブログ『満月を知る』では、物事の本質を見抜こうとする、技術者ならではの視点余計な思考を削ぎ落としていく「引き算」の暮らし矛盾を抱えたまま、ただ「居る」ことの心地よさこれらを大切にしながら、日々の断片を綴っています。私にとって、そしてあなたにとって、世界が「塩大福」のような、甘みと渋みが調和した満腹な場所でありますように。

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