第16話 チョコミントアイス

「これ、本当に美味しいと思ってるの?」 彼女が少し眉を寄せ、僕が差し出したスプーンを覗き込む。青色の冷たい塊には、不規則な形のチョコチップが点在している。

「美味しいよ。この清涼感と甘さが混ざり合う瞬間が、一番『今』を感じる気がするんだ」 僕はそう言って、もう一口運ぶ。鼻先を突き抜けるミントの香りが、初夏の湿った空気を一瞬で浄化していく。かつて工場で機械の精度を管理していた頃の私は、こうした「好き嫌いが分かれるもの」の存在意義を、効率や数字で定義しようとしていたかもしれない。

けれど、今の僕は違う。理屈を捨て、ただ目の前にあるアイスの冷たさと、それを怪訝そうに見つめる彼女の瞳の輝きを、高い解像度で記憶に刻もうとしている。

「一口、食べてみる?」 僕がそう促すと、彼女は「……少しだけね」と、僕の手からスプーンを奪うようにして口に含んだ。

「……やっぱり、歯磨き粉を食べてるみたい」 そう言って笑う彼女の口角には、小さなチョコの欠片が残っている。僕はそれを見て、思わず吹き出してしまった。仕事で内部監査を完璧にこなすような私が、こんなにも無防備に笑うのは、彼女の前だけだ。

「いつでもウェルカムだよ」と心の中で呟きながら、僕は彼女のペースに合わせて歩幅を緩める。彼女の好き嫌いも、この不完全な午後のひとときも、すべてをしなやかに受け入れていたい。

「次は、普通のバニラにしようね」 彼女が笑いながら僕の腕にそっと触れる。その指先の温度と、口の中に残るミントの余韻。

「そうだね。次はそうしよう」 正解を求める「足し算」の会話はいらない。ただこの瞬間、少しだけ隙を見せた僕の隣で、彼女がほっこりと笑っている。その事実だけで、僕は十分に満たされていた。

diary
naocha

製造現場の最前線で、長らく生産技術の仕事に携わってきました。
工作機械の緻密な構造や厳格な規律、そして効率化という名の「引き算」の世界で、日々研鑽を積んできた背景があります。
しかしある時、完璧な設計図の中にも「ゆらぎ」があることに気づきました。
それは、昼と夜の境界に現れる茜色の夕焼けや、どこからともなく漂う金木犀の香りのような、数値化はできずとも確かにそこに「在る」美しさです。
現在は、技術者としての客観的な視点を持ちつつ、物事の「中今(なかいま)」を大切にする精神で、何気ない日常を静かに観察しています。
このブログ『満月を知る』では、物事の本質を見抜こうとする、技術者ならではの視点余計な思考を削ぎ落としていく「引き算」の暮らし矛盾を抱えたまま、ただ「居る」ことの心地よさこれらを大切にしながら、日々の断片を綴っています。私にとって、そしてあなたにとって、世界が「塩大福」のような、甘みと渋みが調和した満腹な場所でありますように。

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