外は静かな雨が降っている。 薄暗い部屋の中で、彼女が嬉しそうに抱えてきた古いレコードを、新しく迎えたプレーヤーにセットした。 ゆっくりとアームが動き、針が黒い溝に落ちる。
パチパチ、という、少し乾いたノイズがスピーカーから漏れた。その後に、擦り切れたような古いジャズの旋律が、部屋の湿った空気に溶け出していく。
音響の精度や歪みのないデジタルな音質を知る私にとって、かつてならこの雑音は「排除すべき欠陥」だった。しかし、ソファで一つの毛布を分け合いながら、その音に耳を澄ませている今、このノイズこそが愛おしい「余白」に思えるから不思議だ。
「ちょっと雑音が多いかな?」 彼女が私の顔を覗き込み、少し心配そうに眉を下げる。
「ううん。このパチパチっていう音が、この部屋をいつもより広く、静かに感じさせてくれる。すごくいいよ」 私がそう言って彼女の肩を寄せると、彼女は安心したように私の胸に頭を預けた。
完璧である必要なんて、どこにもない。欠けているからこそ、不完全だからこそ、人は愛おしく、寄り添うことができる。社会の中で隙なく生きようとする彼女が、私の隣でだけは、このレコードの傷のように、自分の弱さを無防備に晒してくれている。
音楽の合間に響く不規則な揺らぎを、私たちはただの心地よさとして全肯定していた。
「ねえ、次の休みも、古いレコード屋さんに行こうね」 彼女が目を閉じたまま、小さく呟く。
「ああ、行こう。今度はどんな傷のある曲に出会えるか、楽しみだ」 雨の音と、古いレコードのノイズ。その不完全な調和の中で、私たちの時間は、静かに、けれど確かに満ちていっていた。
